名古屋地方裁判所 昭和29年(行)7号 判決
原告 水谷周蔵
被告 名古屋国税局長
一、主 文
原告の訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は被告が昭和二十八年十二月二十三日附名局直所審第二五六九号通知を以てなした原告の昭和二十七年分所得税審査請求却下の決定はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、其の請求原因として、原告は訴外名古屋中税務署長から原告の昭和二十七年度所得は金三十八万円と謂う更正を受けたので、中税務署長に再調査の請求をしたところ、同署長は昭和二十八年七月十日附を以て右再調査請求を棄却する決定をなし原告は其の通知書を同年七月二十日受取つた。しかし原告は右決定に承服し難かつた為被告に対し同年八月十九日審査の請求をしたところ、被告は同年十二月二十三日附名局直所審第二五六九号を以て本審査請求は原告が再調査決定の通知を受けてから法定の不服申立期間たる一ケ月の期間経過後にした不適法なものとして却下した。しかしながら右却下決定には次の違法がある。即ち中税務署長の右再調査請求棄却の通知には同年七月十日附でなされた旨の記載があるので其の日より二日経過頃には原告住所に送達されて居た筈であるが、当時原告の妻は心臓病の為他で療養し原告は其の看病の為附添つて原告の家は戸締をして不在であつた。従つて中税務署長よりの再調査請求棄却の通知も戸締の事由を以て返戻された。原告が右通知を受領したのは偶々病人の衣類を自宅へ取りに来た同年七月二十日郵便配達吏より受領したものである。元来中税務署長の右通知は被通知者に到達するによつて其の効力を生ずるものであるが、到達したと謂う時期は被通知者が意思表示の内容を知り得べく、且つ社会通念よりみて被通知者がこれを知ることを期待し得べき時を標準とすべきである。本件再調査請求棄却の通知は前述の如き事情で、同年七月二十日に其の送達を受けて其の内容を知了したから其れより法定期間たる一ケ月以内にした本件審査請求は適法であるのにこれを期間経過後の理由を以て却下したのは到達の解釈を誤まつた違法の処分であるから右審査請求却下決定の取消を求める為本訴に及ぶと陳述した。(立証省略)
被告指定代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として原告主張の事実中訴外名古屋中税務署長が原告の昭和二十七年度所得の更正決定に対する再調査の請求を同二十八年七月十日附で棄却したこと、原告がこれに対し同年八月十九日審査の請求をなし、被告が同年十二月二十三日原告主張の如き理由でこれを却下したことは認める。
被告は原告主張の再調査請求棄却の通知を同年七月十日第五種市内特別郵便物として発送した。右郵便物は名古屋市内においては遅くとも二日以内に市内居住者に配達されるもので、仮令名宛人方住居が戸締りされて不在であつても、私設郵便受箱があればそれに、ないときは門、扉の隙間等から屋内に差し入れて配達されるもので名宛人が転居でもして所在不明でない限り持ち帰ることはない。若し配達不能で持ち帰つたとしてもこれを配達吏の手許又は郵便局にその儘数日以上も留置することは許されず配達不能の事由を付箋して差出人に返戻される取扱となつている。而して被告には右再調査請求棄却決定通知書は返戻されていないので、遅くとも同年七月十二日迄には原告に送達されているから其れより一ケ月以上経過してなされた原告の審査請求は不適法でこれを却下した被告の処分は適法であると述べた。(立証省略)
三、理 由
訴外名古屋中税務署長が原告の昭和二十七年度所得の更正決定に対する再調査の請求を同二十八年七月十日附決定で棄却したこと原告はその決定に対し同年八月十九日被告に対し審査の請求をしたところ被告は同年十二月二十三日原告のした右審査の請求を法定の審査請求期間徒過の理由を以てこれを却下したことは当事者間に争がない。
原告は中税務署長の右再調査請求棄却決定の通知書を同年七月二十日受取つたので其れから法定期間たる一ケ月以内の同年八月十九日被告になした審査請求は適法であるから期間徒過の理由で之を却下したのは違法であると謂うが、本件のすべての証拠によるも原告主張の如く同年七月二十日原告に右通知書の送達があつたことを認めるに足る証拠はない。
却つて証人橋本仟の訊問の結果真正に成立したと認められる乙第二号証の一乃至三、成立に争のない乙第一、三号証同第四、五号証の各一、二及び証人橋本仟、坂野弘の各訊問の結果を綜合すると次の事実が認められる。即ち中税務署長の再調査請求棄却決定書は同年七月十日附第五種市内特別郵便で原告宛に発送されたこと、原告方には私設郵便箱が設備されていて同人宛の郵便物は例外なく之に投箱されていたこと、第五種市内特別郵便物はおそくとも発送の日の翌日には配達に附されること、本件郵便物(決定書)が中税務署及び郵便官署へ返戻された事実のないことが認められるので、本件郵便物はおそくとも発送の日(同年七月十日)から二、三日内には原告の私設郵便箱に投箱されたことを窺知しうる。
そしてその頃原告の妻は入院していたのでなく、本件原告住居に病臥しており、原告はこの家と前側の息子の家とに往来していたことが原告本人水谷周蔵の訊問の結果により認められるので、このことと、前記認定とを併せ考えると本件郵便物(決定書)は右投箱の日に原告においてその内容を了知しうべき状態におかれたものというべく、従て本件決定書はおそくとも同年七月十二、三日頃原告に送達されてその効力を生じたといわなければならない。してみるとたとい原告が現実になんらかの事情で右決定書の内容を見ることがはるかにおくれたとしても、そのことは右決定の効力発生の時期に影響を与えない。しからば本件審査の請求が一ケ月の法定の期間経過後に係るものであることは明白であるから右請求を却下した被告の処分は適法である。してみれば原告の本訴請求は結局適法な訴願手続を経ていないことに帰するから不適法な訴として却下することとし、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 白木伸 村本晃 宇佐美初男)